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幼児期の子育てのスタイルは国ごとに異なりますが、特に日本とオーストラリアには顕著な違いがあります。
どちらの国の親も、健康で幸せな子どもを育てるという目的は共通ですが、そのアプローチは実は大きく異なっています。両国における教育事情を比較しながら、次世代を担う子どもたち育てる方法が、どのように文化によって形作られているかをご紹介します。
子育てアプローチの共通点
どちらの文化でも、親からの愛情の注ぎ方と年齢に相応な期待のバランスをうまくとることができると、幼児期の子どもたちへの教育として最も良い結果をもたらす傾向があります(Hosokawa & Katsura 2019; Lau 2006)。伝統的に、オーストラリアと日本の親たちは、子育ての喜びと困難を乗り越えるために、家族やコミュニティのサポートに依存してきました(Hesketh et al.)。特に祖父母は、孫に大きな愛情を注ぎ、親の代わりに面倒を見ながら、人生の教訓などを伝える上で重要な役割を果たしてきたのです(Lau 2006; Morita et al.)。つまり、世界のどこであろうが、子どもたちを育てるにはコミュニティや周囲のサポートが必要なのです。
親の関与
日本では、特に母親側に多くみられる傾向として、子どもの生活に深く関わり、子育てを何よりも優先するという社会的なプレッシャーや期待に直面しています(Lau 2006)。対照的に、オーストラリアの親は子どもに自由な自己表現を促し、年齢に応じた選択を自律的にさせることで、都度の結果から学びを得ることを主な方針としています(Hesketh et al 2014; Lau 2006)。この点において、日本の親は、共感性、社会的同調性、他者への配慮を育むことを重視していると言えるでしょう(Inoue et al. 2019; Lau 2006)。こうした対照的なアプローチは、それぞれの社会で子育ての実践を形作っている独自の文化的な価値観を反映しています。
厳しい躾け(しつけ)vs ポジティブなサポート
いわゆる”しつけ”の方法も、両国では大きく異なります。最近でこそ変化が見られるものの、日本の親や教育者たちは子どもたちの礼儀や努力する姿勢に対して厳しく、細かな部分まで関与し、時には力を使って体罰と見なされるような手段で応対することもありました(Hosokawa & Katsura 2019; Lau 2006)。一方、オーストラリアの親は、何かを達成した見返りにご褒美をあげたり、「タイムアウト」という方法でポジティブなサポートを好みます(Lau 2006)。ここで言う「タイムアウト」とは、子どもが不適切な行動をした際に、一時的に特定の活動や環境から離れさせるしつけの方法です。具体的には、子どもを静かで安全な場所に座らせ、その行動を反省させるために数分間一人にさせることが一般的です。この方法は、子どもが自分の行動を見直し、次回は同じ行動を繰り返さないようにするための時間を与えることを目的としています。これらのしつけスタイルの違いは、子どもたちの行動や発達をどのように導くのがベストなのかという文化的信念を反映しています。
感情的自立と実践的自立
オーストラリアと日本の子育ての最も顕著な違いのひとつは、幼児の自立心の育て方です。オーストラリアの親は自己表現とトライからの学びを奨励し、情緒的な自立を促します。対照的に、日本の親は共感と社会的同調を重視し、感情的相互依存を育てます(Hesketh et al.)。この対比は、個人の自律性と社会的調和に置かれる文化的優先事項の違いを示しています。
しかし、現実的な自立に関して、海外から見ると日本では幼い子どもたちに驚くべき自由を与えています。例えば、「はじめてのおつかい」というリアリティ番組では、日本の幼児が街中で一人で用事をこなし、買い物をしたり、荷物を届けたりする様子が描かれています(Mitchell 2022)。これは、多くのオーストラリアの親にとっては考えられないことですが、日本では長く愛され続けているシリーズであり、幼少期から子どもたちの実践的な自立心と回復力を育む日本独自のアプローチを浮き彫りにしています(外務省、n.d.; Mitchell 2022)。これは、文化的価値観や社会的支援制度が、いかに子育ての実践や子どもの発達を深く形作ることができるかを示す興味深い例です。
その他の違い
しかし、オーストラリアでも日本でも、子育てのスタイルは宗教や社会経済などの要因にも影響され、個々の家庭で異なります。例えば、幼い頃から自分の子どもへの期待値が低く、適切な家庭内教育がなされておらず、より放任なアプローチをとる親もおり、これらは幼児の問題行動の増加に関連しているとする研究もあります(Hosokawa & Katsura 2019; Suzuki et al.)。また、特に日本では、厳格な規律と集団行動を特徴とする権威主義的なスタイルに傾く場合もあります(Hesketh et al 2014; Hosokawa & Katsura 2019; Lau 2006)。各家庭により考え方はそれぞれ異なりますが、それぞれの文化における一般的な規範がどのようなものであるか、また、異なる集団がどのように発展していくのかに継続的に注目することは興味深いところです。このような教育スタイルの違いは、文化的な傾向が大きな要素である一方、子どもたち一人ひとりの個性や違いが依然として重要な役割を果たしていることを浮き彫りにしています。
まとめ
オーストラリアと日本の親は、どちらも幸せで健康な子どもを育てることを目指していると言う点においては共通していますが、そのアプローチは大きく異なります。オーストラリアでは、親は自己表現と失敗からの学びを奨励し、情緒的な自立を育みます(Hesketh et al.)。日本では、共感と社会的調和を育むことに重点が置かれ、情緒的相互依存の促進が大切にされています(井上他、2019;Lau、2006)。このような違いはありますが、どちらの国でも、幼児への教育は家族や地域社会からのサポートに大きく依存しています。
参考文献:
- Hesketh, J. T., Van Esch, E., & Smith, P. K. (2014). The role of parenting in the development of executive function in preschool children in Australia and the United Kingdom. Journal of Comparative Family Studies, 45(2), 187-203.
- Hosokawa, R., & Katsura, T. (2019). Role of parenting style in children’s behavioural problems through the transition from preschool to elementary school according to gender in Japan. International Journal of Environmental Research and Public Health, 16(1), 21-36.
- Inoue, M., Elliott, S., Mitsuhashi, M., & Kido, H. (2019). Nature-based early childhood activities as environmental education?: A review of Japanese and Australian perspectives. Japanese Journal of Environmental Education, 28(4), 21-28.
- Lau, A. S. (2006). Parenting in Australian families: A comparative study of Anglo, Torres Strait Islander, and Vietnamese communities. Research Report No.5. Australian Institute of Family Studies.
- Ministry of Foreign Affairs of Japan. (n.d.). Local communities and monitoring services support children in doing things independently. Kids Web Japan. https://web-japan.org/kidsweb/cool/local-communities-and-monitoring-services/index.html
- Mitchell, T. (2022, April 26). Old Enough!: Netflix’s wacky Japanese show with some wholesome life lessons. The Sydney Morning Herald.
- Morita, M., Saito, A., Nozaki, M., & Ihara, Y. (2021). Childcare support and child social development in Japan: Investigating the mediating role of parental psychological condition and parenting style. Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences, 376, 20200025.
- Suzuki, K., Kita, Y., Kaga, M., Takehara, K., Misago, C., & Inagaki, M. (2016). The association between children’s behaviour and parenting of caregivers: A longitudinal study in Japan. Frontiers in Public Health, 4, 17-25.